三浦良介さん(当時、東京工業大学附属科学技術高校3年生)

1.2017年度最優秀賞受賞時はなんと高校生でしたが、現在の活動を教えてください。

三浦さん:大学4年生で日本大学 芸術学部 演劇学科の劇作コースという脚本家になるところにいます。またトライアルという芸能事務所のようなところに所属して脚本・演出家としても活動しています。この道に進んだのは、父が元々ラジオプロデューサーやイベントをやっており、両親はその関係で知り合っているので芸能に触れやすい環境で育ってきた、また、両親とも芸能の世界にいたからこそ、僕が一人っ子でも好き勝手やらせてくれている部分があると思っています。

脚本・演出では舞台を3作品作っていて、今は映像の仕事をしています。去年、初めてコロナ騒ぎが起きた時に、コロナの中でしか作れない作品、人に会わなくても楽しめる作品を撮ろうとYouTubeで映像作品を発表しました。7話完結が2種類ありトータルすると20分程度が14本あります。その一本目は、役者さんが一話につき一人しか出てこない、別々の役者さん5人が7話に一人ずつ出演して一つの物語が完結するという形でした。その空間には役者しかいなくて、自分のスマートフォンをどこかにセットしてそれに向かって演技をしています。全部がリモートで、僕も脚本は書いたけど、その演出をつけるのもリモートだし、指示してセッティングするのもリモートで、誰にも会わないまま打ち上げもZOOMで、何の人の温もりも感じないまま7話作りました。YouTubeは観てもらいやすいのもありますが、一週間に七日間連続で毎日同じ時間に一話ずつ時間を設定してライブ配信みたいな感じで上げて、観ているお客さん一人一人が一対一で映像の中の人と対話しているような感覚を感じてもらえるような作品です。口頭の説明だと分かりづらいので、お時間あるときに観ていただけると嬉しいです。

2.コンペの参加・実施経験が現在の活動に活かされているということがあればお願いします。

三浦さん:最優秀賞の提案も、あまり建築寄りのものではなく、どちらかと言うと「まち」とか「いえ」とかを子どもに教えようというよりは、子どもと何をやると楽しいか、子どもが何をやると楽しいかというのを主題としていて、そこが他の学生先輩方の作品よりもキレがあったのだと思います。まだ高校生で建築を分かっていないのは当然なので、より子どもに目線を揃えて楽しくやっていこう、というところから24時間遊べるのが最高だよね、と考えたところが実は作品を脚本家として作る時にもすごく重要なことでした。

お客さんはその時に何を楽しいと思うのか、この演劇空間の中で何が出来るのか、この作品を見る人がどういう体験を欲している、どういう体験に価値を見出すのだろう、という所はぶれずに考えています。何のテーマであっても建築であっても作品ごとのテーマであっても、一番は観に来てくれる人や遊びに来てくれる子ども、お客さんが一番楽しいものは何か、求めていることは何か、というところだと思います。

また現在、トライアルで作品を撮る時に事務所というかスタジオをセットにする際、高校時代にやっていたことが少し活きています(部屋の模型を見せてくれました)。映像というと演劇よりも情報がリアルに残るので、ここは見えていいとかここは見えてはいけないとか、壁の奥の見えない空間の感じ方とかも検討します。ストーリー性として建築もあるしストーリーの中で必要な建築というのも存在していて、高校で2年間、建築分野にいましたが、ワークショップの経験だけでなく建築を学んできたことが、今、活きている部分もあると強く思います。

聞き手:それは自己実現、今の脚本家への想いと繋がっていますね。あのコンペの頃には、もう脚本家になろうと思っていたのでしょうか。

三浦さん:脚本家じゃないですが、とりあえず芸能としてものを作る世界に行きたいというのがありました。建築の方に進むというよりは、高校以前から舞台とか芝居とかに出なくてもいいからつくる・創造するところにいたいと思っていました。

聞き手:それは、大学に入って建築を勉強し始めて、人とまちとか人と空間の繋がりに興味を持った延長にワークショップがあるのとは全然違うアプローチです。ある意味、ワークショップにはより本質的ですね。宿泊するワークショップはコンペ実施案として初めてでした。高校生が運営するということで、企画やスケジューリングが大変そうだと感じていたのですが、問題なくこなして驚きました。

三浦さん:コンペ参加の経緯から話すと、僕の高校では課題研究という研究をしないと卒業が出来ないので、そのテーマを考えていました。色々と建築のコンペがあり普通に設計するコンペは多いけれどもそれには出すつもりはなく、その時にSHIBAURA HOUSEで何か企画をしていると言うのを聞きつけて、そこに子どもワークショップコンペを結びつけて面白い提案をしたらいいと考えたのです。僕と木村亘君と池田志帆さんの三人のチームでしたが、元々、僕らはコンペで優勝しなくてもワークショップを実施する前提で作っていたので、そこが他の団体さんとは一番違う部分です。僕は、スケジューリングは得意ではないのですが、SHIBAURA HOUSEを既に抑えて予定が立っていてやる内容も決まっている、コンペの結果に関係なく実施する前提だったのが、最後まで混乱せずに学生だけで運営できた理由だと思います。

3.今後当該コンペに参加される学生に向けて一言あればお願いします。

三浦さん:自分たちが元々テーマとして重要視していたのが、子どものためのワークショップということです。そこに「いえ」とか「まち」とかという要素を組み込むという考え方だったので、初志貫徹したのは子どもにとって何が一番素敵か楽しいか、ということです。子どもにとって楽しいことを届けたい、このワークショップを子どもと一緒にやりたい、というのが共有できて明確に形が見えていれば、自然と他の団体さんより圧倒的に熱量が変わってくると思います。コンペ提出案のドローイングも手描きで上手に作れていなかったけれども、自分達がやりたい思いとか、どうしてやりたいか、というのが熱量として見てもらえた部分もあると思います。
自分達がやりたいことにまず自信を持つこと、それから、子ども達に対しては一緒にやることに楽しさを感じてもらえるようにするということを、自分達の中で共有できれば、すごくいい提案になると思います。

聞き手:映像には間違いなく空間が含まれているし、空間と時間と合わせて映像になる部分もありますよね。三浦さんの現在の活動と建築というジャンルとがまた近づいて来たりするのかもしれないので、また、建築学会でなにか発表してくれるといいなと感じました。

三浦さん:実は今年はまたコンペに出そうと考えていましたが忙しくなって出せなかったのです。来年は後輩のプロデュースで参加しようかと思います。

聞き手:在学中ならご自身も参加出来ます。三浦さんの強みは色んな文脈が今、結実している、未来に向かって開いている、厚みがあるところだと感じました。来年度挑戦してもらうと、通過点だと思いますがまた一つ結果が出るのではないでしょうか。

三浦さん:では、参加して建築と全然関係ないところから最優秀賞を狙いたいです。

聞き手:是非、提案を期待しています。本日は、ありがとうございました。

インタビュアー:齋藤繁一・石井ひろみ

コンペ後の懇親会にて(建築会館中庭)
コンペ後の懇親会にて(建築会館中庭)
ワークショップの様子1(@SHIBAURA HOUSE)
ワークショップの様子1(@SHIBAURA HOUSE)
ワークショップの様子2(@SHIBAURA HOUSE)
ワークショップの様子2(@SHIBAURA HOUSE)