第11回子どものまち・いえワークショップ提案コンペ審査員講評

第11回子どものまち・いえワークショップ提案コンペ審査員の先生方の講評を公開いたします。

高木次郎(東京都立大学 准教授)
非常にユニークな提案がたくさんあり、賞の選出には迷いました。子どもがどのように楽しんで参加してくれるかという視点と、具体的にどのようなアウトプットがあり、どのような達成感があるかとうい視点を重視して評価しました。それから、コンペのタイトルにもある「まち」や「いえ(建築)」ならではのワークショップになるかという点も考慮しました。私は構造が専門なので、普段は建築単体に着目することが多く、まちづくりという観点から、子どもたちに新たな発見や喜びを提供できるかという議論も興味深く、提案を拝見しました。高木賞を贈った「キャンパスツアー」は、耳が聞こえない人の存在を子どもたちに伝え、その日常を知ってほしいという意図の提案で、プレゼンテーションでは内容を文字に記して紙芝居のようにめくって伝えてくれました。審査会終了後のブレイクアウトルームでの懇親会で、プレゼンテーションでは何も言わずに紙芝居をめくるだけにしようかと検討したけれど、視覚障害のある方には伝わりにくいので、口頭での説明も添えたと伺いました。その工夫は素晴らしいと思いますが、子どもたちが体験した後のアウトプット、つまり、子どもたちが何を学び、どのように発表するか、そしてどのようにワークショップを楽しめるかという点までプログラムを練ることができたら、より良かったと思います。応援しています。
どうもありがとうございました。

 

中津秀之(関東学院大学建築・環境学部 准教授)
第2次審査で「まちいろクレヨン探検隊」に3点を入れたのは、ただ楽しそうなだけでなく非常に完成度が高かったからです。街を対象とするワークショップの基本的なプロセスが踏襲されているので、他のチームのみなさんにとっても参考になると思います。第一段階は現地で「観察」するフィールドワークの技術。第二段階は観察したものを情報化する「記述」の技術。第三段階は部屋に帰って来てから、情報を組み替える「編集」の技術です。そしてそれらの結果を踏み台にして第四段階として「ジャンプ!」することが重要な創造に繋がります。フィールドワークをやると、自動的にデザインが生まれてくると思いがちですが、勇気を持って「ジャンプ!」することが、ワークショップの成果にとって重要となります。「まちいろクレヨン探検隊」は、この点が良く出来ていると判断しました。
さらに重要なのは、参加した子どもたち同士でどの様に成果を共有するか、そして「達成感」を分かち合うかということです。また実行する学生にとっても、ワークショップを企画・運営することを通して、企画者や設計者として将来的に有効な技術の習得を体験していることを自覚するべきですね。
中津賞の「都市と影」は、都市部の「影」に着目した点が良いと思いました。以前、都市部の木陰の研究をしたことがありますが、樹種の違いや地面の舗装素材との関係、季節による変化など、影が人の心にどういう影響を及ぼすかは環境心理学的にも重要なテーマですね。「都市と影」のチームの提案は、まだまだ検討の余地はありますが、ビルの影だとどのような影響があるかなど、これからも深めていって欲しいワークショップだと判断しましたので、今後の期待を込めて中津賞を差し上げたいと考えました。参加された皆さんには、これからも引き続きワークショップの意味や意義について考えて欲しいですし、是非、自分たちで実行して来年のこのイベントで報告して下さいね!

 

土肥潤也(コミュニティファシリテーター)
今年度は最優秀賞が2作品となりましたが、ふたつに共通しているのは、つくり込み過ぎておらず、参加する子どもたちが自由に考えたり、つくれたりする「あそび」があることです。その点がとても良かったと思います。例えば、「足うらはセンサーだ!」は自分たちで並べ替えるなどアレンジがその場で広がっていきそうなことがイメージでき、「まちいろクレヨン探検隊」は、その場で色をつくって再構成できます。ワークショップはつくり込み過ぎていると窮屈になってしまって、参加者の主体性がなくなってしまいます。「あそび」がデザインされていることはとても重要です。土肥賞は「高く積み上げて競い合え」に贈りました。第1次審査の質疑の時に、ワークショップとして非常によく考えられていることが伝わってきました。ただ積み上げるだけでなく、すごろくを導入するなど全体的によく練られたプログラムです。他の審査員からも意見が出たように、高く積み上げる以外の方法についても考えて良いのではないかという点は今後考慮をしてもらいたいと思います。全体として今年度は、建築や構造というハードなものよりも、触ったり、五感で感じたりする提案が多かったような印象がありました。

 

田中稲子(横浜国立大学 教授)
審査に関わるのは2年目で、前回もふだんあまり目にしない子ども向けのワークショップの提案を聞いて非常にわくわくした記憶がありますが、今年度もみなさんの提案に刺激を受けました。土肥先生が指摘されたように五感を使う提案が多く、自分が子どもだったら絶対に楽しいだろうなという提案が非常に多かったと思います。参加してくれた学生のみなさんは、十分、大人になっていますが、子ども目線で考えられたのではないかと思います。子どもにとってまちの見え方は相当狭く、自分の視界の範囲でしか見ていないので、ワークショップを通して、(空間的にも社会的にも)その視野を少しでも広げられる機会を与えられると素晴らしいと考えています。今日のほとんどの提案はそのような気づきを与えられるプログラムになっていたので、ぜひ入賞していなくても、自分のまちでトライしていただきたいです。田中賞を贈った「モザイク建築をめぐるQRコードの旅」は、最初はまちにQRコードを貼る大胆さに惹かれましたが、まちのおもしろさを発見するプログラムに変えていけるポテンシャルが高いと思います。これは自分たちでまちを歩いて、まちのおもしろさを引き出しておかないと有意義なクイズがつくれません。ぜひおもしろいプログラムに昇華してほしいと願っています。

 

審査委員長:手塚由比(建築家/手塚建築研究所代表)
上位に残った作品は、すべて子どもの五感を使う提案でとても良かったと思います。「足うらはセンサーだ!」で少し気になっているところは、室内で行うことが想定されていて、あまり外には出て行っていないことです。土地性や土地のコンテクストがあまり感じられません。私たちは毎年クロアチアでワークショップをしています。グロズニャンという1周歩いて15分くらいの小さなまちですが、まち自体を題材にして、中世の石畳がまちの大事な要素と捉えて、裸足で石畳を歩きました。そのまちにとって重要な足触りでした。それが、子供たち自身のまちの記憶として残っていく。このような点を考えられると、もっと良かったと思います。「まちいろクレヨン探検隊」は、土地のことを考えている点は良かったです。クレヨンを使って絵に描くということでしたが、グロズニャンのワークショップでは、観光客に石に絵を描いて置いてもらいました。自分がいた軌跡を残し、記憶を共有する。まちのイメージが子どもの心の中に詩的に残っていく。そういう仕組みがあるともっと良いと思います。「積み木であかり」は、完成度が高いので、ぜひ今後も続けてください。いずれにしても、子どもたちと一緒に行うワークショップだから、楽しいことも大事だし、新たな気づきを得ることも大事です。ワークショップでは、子どもたちにどのような気づきを得てほしいかを考えるともっと良くなると思います。みなさん、ありがとうございました。