第12回 子どものまち・いえワークショップ提案コンペ 審査員講評


審査委員長:手塚由比(建築家/手塚建築研究所代表)

昨年度に続いて最優秀受賞作品が二点となり、良かったと思います。みなさん、見ていてわかったと思いますが、最優秀チームは自分たちで検証したうえでプレゼンしていました。ちょっと考えてプレゼンだけしても、自信をもって提案できません。建築をやるうえでは模型をつくるのが大事だけど、それと同じように自分で考えたことを形に落としていくというプロセスがとても大事です。どんどん形にして試してほしいと思います。

まちづくりのコンペでおもしろいのは、子どもを巻き込んだコンペだということです。建築教育は日本では子供達には開かれていないので、子どもたちが建築を知る機会がありません。フランスでは、子どもたちが学校で建築を学ぶ機会があります。みなさん、これから楽しんで子供達とのワークショップを成功させてください。

 

高木次郎(東京都立大学 教授)

朝からたくさんの作品を見させていただき、とてもよい刺激になりました。採点は審査員の先生方それぞれですが、僕の場合は次のようなことを意識しました。一つめは着眼点の意味や面白さで、二つめはワークショップの運営方法の計画性です。そして最後に、子どものイベントとして、達成感が得られるプログラムになっているかということです。優劣をつけ難いものもたくさんありましたので、結果だけを見ずに、参加して考えたことや審査のコメントなどを振り返って、それを糧にしてこれからもがんばってもらいたいと思います。

 

田中稲子(横浜国立大学 教授)

建築環境工学という分野にいますので、今日の発表のなかでも、匂い、音、足裏ペタペタといった五感を使うワークショップが多かったのを嬉しく思いました。結果的に優劣がつきましたが、グループでディスカッションしてつくりあげた経験は、みなさんの血となり肉となっています。これから、インターンに入ったり、研究に打ち込んだりするときにも、そういう経験を活かしてほしいと思います。そして、子どものためにも良い空間づくりに貢献してほしいと願っています。

 

土肥潤也(コミュニティファシリテーター)

自分は仕事で4月にこども家庭庁の審議会に入っています。「こども基本法」という画期的な法律ができました。第11条注1)では、こどもの声を聞いたり、こどもに参画してもらったりすることは、やった方がよいことではなく、やらなくてはいけないことになりました。この点で今回のようなこども参画のワークショップ提案は非常に重要だと思います。自分は、参加した子どもにとってどんな気づきや学びがあるのかに絞って審査しました。受賞した企画はコンセプトが立っていました。さらに、リハーサルをかなりやったから受賞したのだと思います。アイデアはアイデアのままにしておくのではなく、なんらかのかたちで実現してくれると、自分たちにとっても学びがあります。ぜひ何らかの形でワークショップ実践をしてみてください。

注1)国及び地方公共団体は、こども施策を策定し、実施し、及び評価するに当たっては、当該 こども施策の対象となるこども又はこどもを養育する者その他の関係者の意見を反映させるために 必要な措置を講ずるものとする。

 

中津秀之(関東学院大学/建築・環境学部 准教授)

まちづくり活動に興味のある人とそうでない人がいると思いますが、これからは間違いなく、人と人をつなぐ意識を持っている設計者が生き残ります。そういう意識を持っている人こそ、デザインのちからを信じて、誰もがワクワクする空間の設計を目指して欲しいです。そして子どもの未来を考える人は、街全体の未来を変えることの出来る人なので、社会のリーダーであることを自覚した上で、設計の仕事に取り組んで下さい。

また学生の間は、可能な限り他領域の学生たちとの交流を通して、様々な体験を増やして下さい。他領域の専門家との人的なネットワークは、プロの設計者になってから強力な武器になります。そのためにも、このコンペで出会った友人を大切にして、その人間関係を後輩たちに繋げて下さい。そして皆さんがプロになっても、このコンペ会場に立ち寄って、最先端の現場の情報を学生たちに伝えて欲しいと思います。

以上